サクラ、サクラ

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暖かい週末でしたね。
どこからか風に乗って
桜がひらひらと舞ってきそうな土曜日でした。

きのうの日曜日も概ね良好。
それなのに僕は週末の2日間、
いま住んでいるビルの屋上に一度出ただけ。

なんてもったいない!と思うでしょ〜。
いいんです、いいんですよ。
外食なし、外お茶なし。
僕は僕でテレビのなくなった部屋で
気持のいい時間を過ごしていましたからね。

ところで桜で思い出すことがあります。
きょうはこのエピソードをきいてくださいね。
それは僕が20代の終わりのころのことです。

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暖かくなってきた4月の下旬に向かうころ、
僕はひとりでバイクを使って3泊4日の出張に出た。
仕事なのにバイクで移動するということだけで休日気分だ。

リアシートにセットしたバッグには
2冊の文庫本とノート、縮尺500万分の1の地図。
取材用のカメラNikon F2と簡素な録音機器とラジオ。
それと好きな音楽を収録したカセットテープ。

バイクは白いボディカラーのHONDA XL250だ。
フロントホイールが23インチという初期モデルを
僕はこの日のために知り合いから借りていたのだ。

仕事は順調に運ぶ。
すべての仕事を終えたその日の午後、
好きなホテルに行って「ひとりです、宿泊させてください」。

部屋に入りシャワーをすませ、
録音機器に好きなカセットテープをセットした。
僕はいつのまにかベッドの上でうとうとした。
20〜30分たったのだろうか。
目を覚まし窓の外をみると、
まだあかるい街並と街路樹が見える。
僕は散歩にでかけるための準備をして部屋を出た。

翌朝ベッドから起きると
ツーリングだけのための一日がはじまった。
じつは僕は出張に出る前から、
そのうちの1日をツーリングに使おうと企んでいたのだ。
このことを上司はきっと知っていたはずだ。

僕は早くにホテルで朝食をすませチェックアウトして
市街地を抜け海側の国道に向けて走り始めた。
瀬戸内海に沿うように走る国道からは
海面が陽射しを反射してキラキラ光る景色が続く。
平日の片側1車線を走るツーリングするバイクは僕だけだ。
好きな景色に出会うとバイクを停めてしばし休憩だ。
なんども、なんども。
ああ、なんて自由なんだ、僕は。

そんなことを繰り返して午後も夕方に近づいたころ、
山へのルートをとった。
山間では気温が下がり肌寒く感じる。
今夜のホテルはどこにしようか、
そんなことを考えながらいくつものコーナーを抜けていった。

そして左へ曲がる緩いコーナーを抜けたそのとき、
いきなり淡く薄いピンク色の世界に突入した。
道路の両側がすべて薄いピンクに覆われ、
さらに走る前方の道路に多いかぶさるほどだ。
一瞬の後、それは満開の桜並木なのだということに気付いた。

走る僕。
あと1キロ、あと1キロ。
まるで僕は桜のアーチに迎えられたマラソンランナーだ。
沿道から道路に小旗を手に人が飛び出してきそうだ。

風に吹かれ舞う桜の花びらが
ヘルメットやシールドを外している頬をかすめていく。
さらに花びらは僕の全身にまとわりつき、
やさしくゆっくりと撫でて後方に過ぎていく。
走っている4ストロークのエンジン音が消えた。
そのすべてがゆっくりスローモーションで動いて行く。

僕は胸に首から提げていた
モータードライブ付きのNikon F2のリモートスイッチを使い、
ファインダーを覗かずにシャッターを切った。
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桜吹雪の中をバイクで走っている20代の僕を、
いま56歳の僕自身が白いHONDAのリアシートから見ています。
不思議な気分です。

Memo:写真は2006年の4月に広島県の海沿いの小さな町で撮影した。

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