きれいな週末

シュウマツ ヲ ミッカ スゴシタ アナタヘ

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「いつもの川岸の緑の上で」
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土曜の朝ベッドから起きだして
グラスに注いだ冷たい水をゆっくりと飲み干した。
すぐさま感覚が目覚めた僕は
ブラインド越しの通りに明るい日射しが注いでいることを知った。
すると気分はほんの少し昂揚し
足が床から数ミリ浮いたような気分だった。
スキな音楽を流しすぐさま僕はシャワーを浴びて
外に出かけるための準備をはじめた。
陽焼けをするためだ。

僕の陽焼けする場所はいつも街なかの、
ある川岸の緑の上と決めている。
この日は今年になってはじめての陽焼けだった。
支度をすませサンダルに
Tシャツとサングラスの僕は部屋を出た。
まるで夏の様相だ。

正午近くだというのに天気がいいせいだろうか、
街にはすでにたくさんの人たちがあふれていた。
途中でワインとパン、
それにブラックオリーブとトマトを買い込んだ。
耳につけたイアフォンからは今日のこの快晴と同調した
気持いいメロディーとリズムが流れている。
というよりそういう選曲を僕自身がしているのだ。
僕の足は路面から1センチは浮いているようだった。

僕は歩く。
信号に停められたひとたちは
最小限の影を歩道にとどめている。
雑踏を抜け川岸を歩く。
ここにも多くの人たちが満開を少し超えた
桜の下で季節を謳歌していた。
僕はそのそばの小径を抜けいつもの場所へたどり着いた。
小径から川に向けてゆるやかな斜面の緑の上に
カモフラージュプリントのシートを敷いた。
使い続けてもう20年以上になる米国製のそれは
二人が上で横になれるだけの大きさがある。
僕はサンダルを脱ぎ裸足でシートの上で
ワインのスクリューキャップをひねりカップに注いだ。
いま僕は夏の中にいるようだった。
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『RIVER ROUTE」
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僕は部屋を出る前に、あるひとりの女性に
陽焼けをしないかという誘いのメールをしていた。

彼女とならこの快晴の週末がさらにたのしくなると思ったのだ。
じつは彼女とは一緒に陽焼けをしようという約束を交わし
その約束がこんなにも早く実現するとは思っていなかった。

うまくタイミングが合った彼女がやってきたのは
この日、気温がいちばん高くなったころだった。
僕らは太陽の日射しを浴び、風に吹かれる。
自由に満ちあふれた時間をたのしむ。
1本のワインが空くのに、さほど時間はかからなかった。
ふと彼女が笑いながら僕に
空いてしまったワインのラベルを指し示した。
「RIVER ROUTE」。
なんだって?!
僕は笑った。
それも、おおきく、おおきく。

僕はこの白ワインを買う時に
店頭ですすめられるままにテイスティングをし、
価格以上の味を決め手に選んだのだった。
生産国はもとよりラベルにはとんと目がいかなかった。

空いてしまった「RIVER ROUTE」を目にし、笑い飛ばした僕は
「Coincidence」に触れた二日前のエントリーを思い出した。

この川を前に、それはあんまりじゃないか。
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「ハバナまで何マイル?」08.4.13.1.jpg

部屋を出かける時に僕は1冊の本を持ち出していた。
ブックカヴァーのウラには
『アメリカを深く考える極上のロード・エッセーだ』とある。
僕の好きなEdward Hopperの絵が表紙を飾っている。
しかしいつ買ったのか、どこで買ったのかまるっきり思い出せない。
シートの上でワインを飲みながら目次を見るともなく見ていて、
ある章のタイトルに目がいった。
61の風景のひとつ、25番目のページをめくり読み始めた。
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「きれいな勝利か、きれいな敗北しかない」
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読み終えた僕はかたわらの100mlボトルの香水
「Aequa di Cuba」をページにふりかけた。
大気が乾燥しているために
香水はいつもより早く揮発してしまうようだ。
ふたりはページにしみた香りを嗅ぎそして閉じた。
この日僕らも「Aequa di Cuba」を
幾度も纏ったことはごく自然の成り行きだった。
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さてまもなく日曜が終わろうとしています。
みなさんの週末はいかがでしたか。
きれいな風がながれていましたか。
あふれる光があなたを外に誘ってくれましたか。

季節は巡ります。あなたにも、僕にも。
僕は夏がくるまでにきれいな陽焼けをしようと思っています。
いま105ページの残り香が、そうしろと言わんばかりです。

それではきれいな一週間を。

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