午後の微笑み

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連休最後の日。
目を覚ましたのは午前10時過ぎだった。
僕は目を閉じたままベッドサイドにあるラジオに手を伸ばして
いつものように手探りでスイッチをいれた。
カチッと音がした。

そうしてそのままじっと午後が近くなるまで
眠りと現実の真ん中の曖昧な時間を過ごしていた。
いま思い起こしてみるのだが、
それがどんな番組だったかまるっきり覚えていないのだ。
CMがないことだけは確かなのだが。

そんな時間の中で僕は今日すべきことを
ぼんやりとした頭の中でゆっくりたどってみた。
すると予定はひとつだけだった。
数日前にメールを寄越したひとりの女性の依頼に応えることだ。
そのことを考えながらまた惰眠を貪った。

ラジオが正午の時報を伝えた。
僕はそのアナウンスを機にベッドからゆっくりと起き上がった。
ブラインドを少しだけ開けて窓の外に目をやった。
いま午後がはじまった表通りは秋の陽射しにあふれていた。

部屋の中では約束の時間を逆算しながら
僕がすべきことの時間が流れていく。

その時間の流れの規律に一瞬戸惑いが起こった。
すべきことの時間が重複したのだ。
僕は一度袖を通したレザーのライダースを
同じ色の黒いウールのジャケットに取り替えた。

「わたしをみてほしいの。できるなら写真を撮ってね」

これが数日前に彼女が寄越してきたメールだ。
僕は「うん、たのしみにているから」と簡単な返信をしていた。

会場について約束の時間がはじまった。
彼女は歴史ある美しいドレスを身に纏いやや緊張の面持ちで登場した。
ゆっくりとした優雅な足取りで歩く彼女。
これまで僕が知ることがなかった、はじめての彼女だった。

僕はカメラのファインダーに彼女を捉え、
何度か静かにシャッターを切った。
そのファインダーから目を離したときに
彼女は僕に向かっていちどだけ微笑んでくれた。
目と口元で。
それはきっと会場の誰にも気付いていない。
それくらい一瞬のことだった。

いま僕の部屋では朝と同じようにラジオが流れている。
かたわらには2杯目の紅茶がマグに半分ほど。
飲み終えても彼女の午後の微笑みが僕を満たしてくれるだろう。

こうして連休最後の一日の夜が深まっていく。
規律を伴いながら。

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「ご父兄の方ですか?」

「はっ? あっ、まぁそうです…」

これは今日出向いた会場の受付で撮影の許可と撮影場所を
確認したときの会話なんです。
ごらんのとおり返答にちょっと躊躇したのですが
「ええ、左様です」とかなんとかさらりと言えればよかったのに。
まだまだワシは修行が足らんです〜(笑)

このあとで僕はそばにある庭園で本を一章読んで散歩しながら
20年前によく吸っていた煙草を買いにいきました。

シガーやパイプも取り揃えているその煙草店で2箱買って
すぐそばにある古い喫茶店に入って
今日はじめての一服をつけました。

店内にはお客は僕のほかには誰もいません。
天井から吊り下げられた大きな箱形のテレビでは、
女子ビーチバレーの決勝戦をやっていました。
テレビの真ん前でお店の店主らしき方と、
ご近所の馴染みであろうご夫人たちが
数人一緒になって観戦されていました。

「あの人、170センチ以上あるんじゃと」
「ほんまねぇ、すごいねぇ」
「カッコええね」
「ほんま、ほんま」

ご夫人といってぼくよりは遥かにご年配の方々です。
それはそれは、とってもお元気でした。

今日トーストしか口にしていなかった僕は
メニューの中からカレーを注文しました。
といってもご飯のメニューはハヤシライスかカレーしかないので
なんとなくカレーにしたのです。

しばらくしてそのカレーがやってきました。
口に含むとその味のなんと素朴なこと。
思わず涙がこぼれるほどでした。
まるで母の作ってくれたカレーに
ちょっとだけお店用に福神漬けが足された、そんなカレーです。

昔僕はここで同じカレーを何度か食べていたのですが
この味をちょっと忘れていたようです。
きっとそのころ食べたカレーは、
腹を満たすものとしか捉えてなかったのかもしれませんね。

今日のカレーは美味しかった。ほんとに。
美味しいにはいろんな味がありますね。
今度行ったときにははハヤシライスを注文してみます。

お店を後にしてまた散歩の続きです。
ちょうどいい川辺を見つけて
僕はまた読みかけの本を一章読みました。
短編はこんな散歩しながら読むのにちょうどいいですね。

夕方になって少し肌寒くなってきたところで
ようやく僕は家路に就きました。

じつは部屋についてからもまた僕はラジオを流しながら
ベッドの上で2時間ちょっと、うとうとしていたんですよ。

今日はそんな穏やかな秋のいい一日でした。

みなさん、珍しくちょっと長いこのエントリーを
ご覧いただきありがとうございました。

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