それは7月の最後の日にはじまり、8月の最初の日に繋がっていった

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 昨夜、僕はひとりの女性と出会った。彼女をYとしておく。女子校に通う3年生のYはイベントの会場となるこのリゾートホテルにリハーサルを兼ねた打ち合わせにきていた。ふとしたなりゆきで僕もその打ち合わせに出席していたのだ。さらになぜだかYのことがスキだという僕の知り合いのオトコも来ていた。僕ははじめからいつもと違った落ち着きのない感情を抱いていた。

 そのイベントを主催するのは僕が行きつけの美容室だった。全国にもセンス、技術ともに広く知られ美容業界から高く評価されているそのサロンにはたくさんの知り合いがいる。じつは数日前にそのサロンの女性スタッフXから「土居さん、じつは会わせたい女性がいるんです。でも彼女はまだ女子高生なんですよね。でもきっと話しが合うと思うんです。今度会うから土居さんのことを言っておきますね」と耳打ちされていた。Xとは知り合って5年くらいになり、Xと知り合った当時、僕は彼女とふたりだけで何度か会っている。だから僕の性格やスキになる女性のタイプなどはおおよそ知っている。だから今回のことはまんざらでもないだろうと僕は少し期待したのだ。

 Yは会場に制服でやってきていた。当然と言えば当然なのだが、夏休みでありしかも夜であるというのになぜ制服だったのかはわからない。イベントでは6人の女性チームでダンサーとして参加するという。ショートヘアで薄いメイクのYは身長は160cmと少しくらい。夏だというのに日焼けはしてなかった。紺色のミニスカートから延びた足はきれいですらっとしていた。腰を左右に揺らせながら歩く姿がリズミカルだった。チームの女子校生らと絶えず冗談やらどうでもいいことを話して騒いでいたが、Yだけは同じように騒いではいても、その集団の中でどこか冷めているように見えた。さらに幼い表情とドキッとする大人の表情が入り混ざった魅力を放っていた。瞳は薄く濡れていた。あとから思い出したのだが、Yは僕が一度目に離婚した直後に付き合った女性にどことなく似ていた。

 リハーサルが始まり、僕はその様子をステージの袖で見ていた。やがてYらの出番が回ってきた。ほんの5分足らずでダンスのリハは終わった。Yはひとり仲間と反対の僕のいる袖の方へと、はけてきた。僕とYは自然に目が合った。お互いに笑顔を交わしごく自然にそのまま話をした。「かっこよかったよ」と僕はYに告げた。「ありがとうございま〜す」と語尾を少し延ばした言い方でいたずらな笑顔でYは僕に軽く礼をした。それは女子高生にしか許されない特権のような仕草だった。だから僕は一瞬にして緊張を解き放つことができた。少なくとも大人の僕としては。ステージでは次のリハーサルがあるため僕らのいる袖が賑やかになってきた。僕らは楽屋の方へ移動することにした。するとYが「外にでませんか」と僕に言った。すぐさま「いいね」と僕は彼女の手を取った。

 このリゾートホテルは海辺にあった。広島市から東に位置し、新幹線が停まるFという街に位置する。僕は過去に取材やプライベートでここへ何度か来ていた。手を取り合ったままの僕らは誰にも告げることなくそのままホテルを出た。リハが行われている会場に背を向け歩き、暗いビーチに腰を下ろした。周囲には人影はなかった。Yが通う高校も住んでいる街も広島市内だっだ。友人はたくさんいるらしいけど、「ときどきかったるくなるし、それに友達がうざくなるの。でも仲のいい友達だよ」。話しをするうちにわかったのだが、Yは僕を広島市内でなんどか見ていたという。僕は初対面だった。僕はYのお父さんより遥かに年齢が上であることははじめから認識しているのだが、しかし会話が弾むにつれそんなことはアタマのどこにもなかったし、どうでもいいと思った。そう思わせてくれ、加速させてくれたのはYだったのだと思う。さらに僕らは“いま”を共有しているのだ。過去や未来じゃなく“いま”しかいない。この“いま”は未来に続いているけど、口にするまでもなく「そんなのカンケイないね。どうでもいい」というのがふたりの一致した思いだった。しかしそんなことに嬉々としている僕は不埒なオトコだといわれてもどうしようもないことは、これまでの人生で周囲から散々言われ続けてきたことだ。

 Yはいきなり立ち上がり僕にダンスしようと言った。僕もノリで「いいね。教えて」と、薄暗いビーチで腰を上げた。ここでマジで言うのがちょっと恥ずかしいのだけど、じつは僕は三年ほど前にハウスのダンススクールに通ったことがある。そのときも女性に誘われたからだ。その女性にも僕は少し惹かれていた。Yが歌いながら腰を左右に揺らせ踊り始めた。そして「土居さんもほらこうして」とそのダンスに率いれた。いや、待っている僕をやさしく率いれてくれたというのが正しいかもしれない。汗が滴り落ちた。僕らの距離が近づいた。ふたりは近づいた。それも一瞬で。どれほどの時間がたったのだろうか。僕らは正確には思い出せないのだ。ほんとうに。

 僕らはホテルに戻った。リハールや打ち合わせもすでに終わっているようだった。すると主催者、関係者、Yのチームのダンサー、20代前半の男らを交え、僕らのことで話し合っていた。みんなの表情からは笑顔が消えて緊張感が漂っていた。彼らから具体的なことを言われなくても、その重い空気から重大なことに陥ったということはすぐに察知できた。避けては通れない現実が目の前にあった。その集団の中に入ろうとする前にYは「わたしたちのいまのそのまんまでいきましょう。あぁあ〜」と半分ふてくされて僕の耳元で告げた。「おお、そうしよう」と僕もYに返した。卑怯かもしれないがYが先に口にしてくれたことが僕はことのほかうれしかった。もういちどみんなの前でYを強く抱きしめたかった。このとき、おおげさではあるがふたりは共に覚悟を抱いた同士でもあるように感じた。でも後になってから聞いたことなのだが、Yからすればそれほど特別なことじゃないらしい。僕は笑いがこみ上げてきた。

 何かが始まるときはこんなものなのだろう。それに理屈や理由をつけるうちはまだまだ本物じゃない。あるいは吹っ切れていない、突き抜けていない。僕はYとの関係に社会的責任を負う立場である。しかしそれがいったい僕らに何の関係があるというのだろう。当然ながら僕はそれを負うことぐらいは承知だ。はじまったものは止まらない。止める理由がないのだ。そう思えるのもいまが夏だから。そうしておく。だってたのしいじゃな

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